Directory of Open Access Journals (DOAJ) の紹介:意義、申請要件、審査プロセスを中心に(質疑応答・コメントつき)
研究者の歩きかたセミナー「大学発ジャーナルのDXに向けた連続セミナー(3)」2024/07/25
https://kiyo.cseas.kyoto-u.ac.jp/2024/08/seminar2024-07-25/
〈講演〉
Directory of Open Access Journals (DOAJ) の紹介:意義、申請要件、審査プロセスを中心に
設樂成実
(京都大学東南アジア地域研究研究所)
本日は、オープンアクセスジャーナルの世界的なインデックスであるDirectory of Open Access Journals、通称DOAJの紹介をさせていただきます。まずDOAJの概要と収録の意義を説明し、続いて審査プロセス、収録の要件を説明させていただきます。
Directory of Open Access Journals(DOAJ)の概要と収録の意義
初めに、DOAJとは何かです。“DOAJ”で検索して、ウェブサイト(https://doaj.org/)にアクセスしながら聞いていただくとわかりやすいかと思います。DOAJは、英国で登録されてデンマークに支社を持つコミュニティ・インタレスト・カンパニー(イギリスの法人形態の一つで社会的な目的によるビジネスを行う)のIS4OA (Infrastructure Services for Open Access)が運営するオープンアクセスジャーナルのインデックスです。昨年20周年を迎えました。
[DOAJの概要]DOAJは、多様な査読付きのオープンアクセスジャーナルをインデックスしています。専門分野や地域、言語に関係なく、全ての質の高いOAジャーナルの知名度、認知度、影響力を世界的に高めることを使命としています。その収録基準は非公式ながらもオープンアクセスジャーナルのゴールドスタンダードとなっている、学術コミュニティーからの信頼も厚いスタンダードとなっていると、私たちDOAJ——私と司会の天野さんは、DOAJでの日本アンバサダーとして活動しています——は自負しています。また、DOAJのサービスやメタデータは無料で提供されています。ジャーナルのインデックスとしてはWeb of ScienceやScopusが有名で、どちらからも様々なサービスが提供されていますが、サービスを提供するにあたってはいろいろなコストが発生しますので有料です。DOAJではメタデータやサービスを無料で提供している点も、特徴のひとつです。
[オープンアクセスの定義]DOAJにおけるオープンアクセスの定義を確認したいと思います。オープンアクセスとは、学術著作物の著作権者が、オープンライセンス(クリエイティブ・コモンズ、またはそれに相当するもの)を用いて、著作物への即時無料アクセスを許可し、——途中省略しますが——利用権を利用者に与える状態のことであると定義しています(https://doaj.org/apply/をご参照ください)。日本ではすでにオープンアクセスという概念が広く浸透していると思いますが、オープンライセンスを用いるという点はまだ欠けていることが多いかと思います。世界では、2002年に策定されたブタペストオープンアクセスの宣言以降、オープンライセンスを用いることがオープンアクセスの定義として一般化しています。DOAJでは、オープンライセンスを用いていない場合には、論文に無料で制限なくアクセスできてもフリーアクセスと定義し、オープンアクセスと認めないことになっています。ここは気をつけていただきたいところです。
[DOAJ収録誌の数]現在、DOAJには2万誌を超えるジャーナルがインデックスされています。このうちAPCのない、つまり論文掲載料を課さないジャーナルは1万3000誌を超えます。言語は80、出版社の国は134か国にのぼります。本日ご参加いただいている方の中には紀要の編集に関わっていらっしゃる方も多いかと思いますが、大学の部局や研究所が発行しているジャーナルの中には、論文掲載料を取らずに部局や研究所の予算で出版しているジャーナルも多いと思います。大きなパブリッシャーに属していない、中小規模のジャーナルもDOAJには多く収録されており、その認知度やビジビリティを上げることもDOAJの使命の一つとなっています。
[DOAJ収録誌の分布]こちらはDOAJにインデックスされたジャーナルの出版国の分布を表したものです。国別の収録誌数ランキングでは、インドネシア、英国、ブラジル、アメリカ、スペインがトップ 5に入っています。日本は現在90誌程度でまだ少ないのですが、科学技術振興機構のジャーナルプラットフォームJ-STAGEが収録申請の支援活動をされており、着実に収録数が増えています。
[DOAJが選ばれる理由]このセクションの最後に、DOAJが選ばれる理由、DOAJに収録される意義を考えておきたいと思います。まずは、次のセクションからみていく収録要件を満たすことによって、ジャーナルが優れた出版基準を満たしている証明になるという点です。そして、DOAJに収録され、検索エンジンや索引サービスに紐付けられることによって、ジャーナルの発見性の向上が期待される点も挙げられます。これらによって、国内、海外から投稿が増える、そして読者が増える、そしてジャーナルの評価、社会的インパクトが高まっていくと考えています。ジャーナルの評価やインパクトが高まり、信頼性が高まるということは、著者やジャーナルにとって新たな資金の獲得につながる可能性もあるでしょう。もう一つDOAJの意義として、現地語ジャーナルが収録される点も大きいと考えています。
審査プロセス
それでは、審査プロセスの説明に移ります。出版社もしくは編集者の方から申請があると、まずイニシャル審査が行われます。これはジャーナルでいうところのプレ査読のようなものです。これをクリアしますと、次は個別審査に移ります。ジャーナルでいうところの本査読のようなものです。個別審査の結果を基に、DOAJのマネージングエディターによって最終決定が行われ、結果が申請者にフィードバックされます。
[イニシャル審査]イニシャル審査のチェック項目として、それぞれの雑誌に付けられる識別子ISSNが登録されていることがあります。ISSNの登録に関しては、ISSNの日本センターである国立国会図書館のサイト(https://www.ndl.go.jp/jp/data/issn/registration.html)を参照いただければと思います。それから、ジャーナルのウェブサイトが用意されていて、きちんと機能していること。出版から遅延なく、また特別な登録をすることなく記事の全文にアクセスができること。著作権及びライセンスに関する情報がウェブサイトに記載されていること。最後の二つは、DOAJの定義するオープンアクセスに則っているかの確認です。
[個別審査]イニシャル審査を通過したら、個別審査に移ります。ここではDOAJのボランティアやスタッフによるジャーナルの個別審査が行われます。ジャーナルのウェブサイトと申請書の内容がきちんと合っているかを一件一件確認していく作業です。質問がある場合には、申請をした方に直接コンタクトを取ります。気をつけていただきたいのは、必ずしも @DOAJというメールアドレスから問い合わせが送られない点です。ボランティアが申請の確認をする場合、ボランティア個人のメールアドレスから問い合わせが行われることがあります。審査期間は申請してから3か月程度なので、その間はメールの見落としがないようにどうぞご注意ください。個別審査を行なったDOAJのボランティアやスタッフは採択または不採択のレコメンデーションをします。
[最終決定]レコメンデーションをDOAJのマネージングエディターが受け取って、申請書と個別審査におけるレコメンデーションの内容を確認します。必要に応じて、さらに審査もしくは問い合わせを行い、採択または不採択の最終決定を行います。
[フィードバック]最終決定が行われると、申請者の出版社や編集者にEメールが送られます。採択になった場合は自動送信で、DOAJには即掲載されます。不採択になった場合は自動の場合もありますし、手動の場合もありますが、コメントがつきますので、ジャーナルをより良くしていただくための情報として、ぜひご活用いただきたいと考えています。コメントを基にウェブサイトの修正やポリシーの再検討などをしましたら、6か月間は再申請不可なんですが、それ以降に再度申請ができます。異議の申し立ても受け付けていますので、ウェブサイトを参照してください。
[査読期間]平均の審査期間は3か月です。申請されてから3か月間は問い合わせ等を受け付けることができません。まだ結果が出ないのかなと気になることがあるかもしれませんが、3か月間は申し訳ありませんがお待ちください。
[採択率]採択率をみておきたいと思います。2023年は7926件の申請があって、1926誌が採択となりました。採択率は24%です。日本からの昨年の採択率は38%です。
[イニシャル審査のリジェクション理由]イニシャル審査でどういったリジェクションの理由があるかを聞いていますのでご紹介します。著作権やライセンスの説明が不完全である、そのポリシーが明らかでないといったところが一つの大きなリジェクションの理由になっています。もう一つは、英語と日本語や多言語でウェブサイトを作っている場合に、それぞれの言語で記載されている内容が合致しないこともリジェクションの理由として上位だと聞いています。申請を準備される場合には注意いただければと思います。
DOAJの収録申請——申請前の確認——
それでは、DOAJの収録申請では、どういう項目が審査され、どういう情報を申請時に記入していくのかをみていきたいと思います。
[OAの定義確認]まずは申請をされる前に確認していただきたいことがあります。DOAJの定義に沿ったオープンアクセスになっているかです。フリーアクセスではなくて、オープンライセンスを用いることが必要です(Training resources (slides, presentations, tools) – Google ドライブも参照)。全てのコンテンツの全文が遅延なく公開され、無料で、オープンアクセスであること。これが一つの基準です。遅延なく公開されるとは、エンバーゴなしで読めることです。学会誌では学会員の利益を守るためにジャーナルが刊行されてから1年間はオープンアクセスにしないといったことがよくあるかと思いますが、これは認められません。ユーザーにコンテンツを読むために何らかの登録作業を要求することも認められません。そして、オープンライセンスを使用していることが必要です。よくある質問に、ジャーナルの印刷版は有料でもいいですかというのがありますが、これは問題ありません。
[内容確認]学術研究論文を掲載しているかという点も確認してください。分野は問いませんが、年間5本以上の研究論文が掲載されている必要があります。また、主な読者として研究者や実務家を対象としていることが求められます。創刊したばかりのジャーナルや、オープンアクセスジャーナルに移行したばかりのジャーナルは、創刊もしくは移行後1年が経過しているか、オープンアクセス論文をすでに10本以上刊行していることが必要です。
[記載事項確認]オープンアクセスジャーナルですから、ウェブサイトが必要です。ウェブサイトの基本的な記載事項をみていきたいと思います。まずはオープンアクセスポリシーですね。DOAJの定義するオープンアクセスに則ったポリシーが明記されていることが必要です。Aims and Scope、ジャーナルがどのようなものを掲載するかに関する説明。そして、編集委員会、投稿規定、査読の編集プロセスに関する説明が必要です。オープンアクセスに関わるところでは、ライセンスに関する情報、著作権に関する情報を掲載してください。それから、著者が請求される料金にどのようなものがあるか。投稿料や編集加工料、ページ料金、カラーチャージ、いろいろあると思いますが、どのようなものがあって、いくらなのかを明記する必要があります。そして、連絡先となる方、例えばマネージングエディターといった方になるかと思うのですけれど、質問を受け付ける窓口となる方の氏名とメールアドレスを記載する必要があります。最後に、ISSN番号ですね。これらをウェブサイトに記載してください。
[URL確認]ジャーナル専用のURLが必要です。学部や研究所のサイトの中で結構ですが、ジャーナル独自のページが必要です。そして、論文ごとにHTMLまたはPDFでアクセスできることを確認してください。例えば、機関リポジトリで公開していて、一本ずつ論文にアクセスできるというのでも構いません。
[HTML・PDF]いま挙げたような項目をできればウェブページの本文に含めることをDOAJは求めています。各項目をPDFに記載して公開するのでも結構ですが、利用者からするとウェブサイトの(HTMLで書かれた)ページのほうがアクセスしやすく、読みやすいので、DOAJとしてはそちらを基本的には求めています。PDFにそれぞれの情報を含める場合には、ジャーナルのウェブサイトからすぐ飛べるようにしておいてください。
DOAJの収録申請——申請書作成——
[申請の流れ]それでは、申請書作成のステップをみていきたいと思います。アプリケーションフォームでは、大項目ごとにページがあって各項目を埋めていく形になります。まずジャーナルのアカウントを作成してから、情報を入力していきます。一時保存ができますので、入力していく過程で、まだ十分に検討できていなかったとか、ウェブサイトに十分掲載できていなかったというところが出てきましたら、いったん一時保存をして、修正してからまた申請を続けることが可能です。
[Step 1]ここから、実際に申請フォームを見ながら説明していきたいと思います。情報を入れていないと次のページに進めませんでしたので、ダミーで情報を入れています。まずは、DOAJのdefinition、定義に沿っているか。もちろんこれは申請する際には準備されていると思いますので、Yesを選びます。オープンアクセスに関するジャーナルの宣言はどこに記載されているか。そのページのリンクをここに入力します。全てのコンテンツをDOAJのいうオープンアクセスの形で公開し始めたのがいつか。ここにはその年を入れてください。途中からオープンアクセスに移行したジャーナルの場合は、ジャーナルの創刊年ではなく、完全なオープンアクセスに移行した年を入れてください。
[OA宣言の例]オープンアクセスステートメントの例が、DOAJのウェブサイトにありますので(https://doaj.org/static/doaj/docs/DOAJquestions-for-reference-only.pdf)、ここに示しました。私たちはオープンアクセスをこういう意味で使っています、ということを書きます。もちろん日本語でウェブサイトを作成しても結構ですので、その場合は日本語で作成したものを公開してください。
[Step 2]About the journalには、ジャーナルの説明を入れていきます。ジャーナルのタイトル、ウェブサイトのアドレス、ISSN番号を入れます。ISSNの規定上、オンライン版とプリント版では別々の識別子が必要です。オープンアクセスの場合は、少なくともオンライン版のISSNを取得してください。次に、6個以内のキーワードを入れます。日本語でしかウェブサイトを持っていない日本語のジャーナルであっても、英語以外の言語のジャーナルであっても、審査の過程で必要なので英語でキーワードを入れてください。ジャーナルの主要なトピックを表す単語、もしくは短いフレーズ、2単語から3単語程度のものを入れます。説明的な文章等は使用しないでください。言語は、多くの言語の論文を受け付けている紀要などの場合は、一つ選択してからボタンで追加していってください。最後に、出版者の名称等を入れると、次のページに飛ぶことができます。
[Step 3]ステップ3で、ライセンスに関する情報を入れます。DOAJは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス、いわゆるCCライセンスの利用を推奨していますので、CCライセンスの6つの中から選ぶ、もしくはCC0(全ての権利の放棄)やパブリックドメイン(著作権が発生していない、もしくは保護期間が終了している)を選びます。出版者独自のライセンスのあり方を決めている場合は、それを選びます。それはウェブページに明記されている必要がありますから、リンクを入れます。ライセンス情報を各論文に埋め込めば利用者にわかりやすくて便利だろうということで、DOAJはこれを推奨していますが、必須ではありません。著作権は著者が持つことを推奨していますが、もちろん出版者が持っても結構です。どちらかを選んでください。こうした情報がわかりやすい形でウェブページに掲載されていることが必要ですので、ここにそのアドレスを入れます。
[CCライセンス]クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、表示・非営利・改変禁止・継承の4つのマークを組み合わせて、利用者がどう利用できるかを示すマークです。DOAJでは、CC BY——作品のクレジットを表示すれば自由に再利用が可能——、もしくはCC BY-SA——元の作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開するなら自由に再利用が可能——の二つを推奨していますが、みなさんのジャーナルでよく検討して選んでいただければと思います。
[CCライセンスの選定]CCライセンスを選定する際の参考になるフローチャートをDOAJが公開していますので(ウェブサイトでは公開していないので講演スライドをご参照ください)、参考にここに示しました。私もCCライセンスを選ぶのは難しいと感じていますが、一度ライセンスを設定すると取り消しが効きません。ここに留意して、いろいろな方面から慎重に検討していただく必要があると思います。助成金によっては、成果の発表の際に付与するライセンスに関する規定を決めているものもあると思います。自分のジャーナルがどのような著者から論文の投稿を受け付けたいかを考える必要があるかと思います。最近では、複数のライセンスの選択の余地を残しておいて、著者に助成金等の状況に応じて選んでもらうジャーナルも増えているのではという印象があります。
[Step 4]ステップ4でeditorial、編集委員会や査読に関する情報を入れます。まず、査読はどういう形態をとっているか。そして、その査読ポリシーへのリンクを入れます。DOAJが示している査読の形態は後ほど紹介します。剽窃チェックツールの利用を強く推奨していますが、これは必須ではありません。それから、編集委員会に関することです。Aims and Scopeへのリンク、編集委員会の情報へのリンク、投稿規程へのリンクを入れます。最後に、投稿から出版まで平均でどの程度の期間かを入れます。短すぎるのは査読をきちんとしていないハゲタカジャーナルの可能性があるので聞いていると私は理解しています。
[査読の形態]査読の形態についてのDOAJの定義を説明します。Editorial reviewは編集委員会のメンバーによる査読です。人文学分野のジャーナルでのみ認められています。Peer reviewは、著者・編集者・査読者がお互いに誰かわかる形の査読。Anonymous peer reviewは、著者は査読者が誰かわからないけれど、査読者と編集委員は著者が誰かわかる形でする。Double anonymous peer reviewは、著者・査読者がお互い誰かわからない形で、一番フェアな形といわれます。ここまでの査読の場合は、編集委員会外部から少なくとも2名の査読者を立てることを求めています。いわゆる伝統的な査読とは異なる形も二つあります。Post-publication peer reviewでは出版前に査読を行いません。ジャーナルは公開で査読が行われるためのプラットフォームを提供して、コミュニティーが査読者として機能してコメントを付ける形です。Open peer reviewは透明性を重視して様々な方法でオープンに行われる査読を指し、例えば著者・編集者・査読者によるオープンな議論です。これらのどれにも当てはまらない場合にはその他を選んで、ウェブサイトできちんと説明することが必要です。
[査読ポリシー]査読の形態と詳細をウェブサイトに記載してください。特集号を掲載するジャーナルの場合は、特集号に関する査読も明記する必要があります。原則として査読者は少なくとも2名必要です。ただし、人文学分野は別です。このことを含めて、分野によってadditional criteriaがありますので(https://doaj.org/apply/guide#additional-criteria-for-some-journal-types)、参照してください。著者の少なくとも一人が編集者、編集委員、査読者である研究論文の割合は、最新2号のいずれにおいても25%を超えてはいけません。この点、少し注意していただければと思います。
[編集委員会]編集委員会に関する情報として、編集委員の氏名と所属先をウェブサイトに明記する必要があります。適切な資格と専門知識を持つ5人以上の編集者で構成された編集委員会にしてください。全員が同一機関の方でも問題ありませんが、そうでないことをDOAJでは推奨しています。
[Step 5]ビジネスモデルとして、著者から料金を徴収するか、するならどういった料金を徴収する可能性があるかをウェブサイトに明記して、ここで入力します。Publication fee waiverは、例えば学会誌では所得の低い国からの投稿の場合には料金を割り引くといったことが多いかと思いますが、そういう規定があればYesを選択してください。
[Step 6]Best practiceというページがあります。DOAJでは、オープンアクセス出版のベストプラクティスを実施したジャーナルに対して、DOAJシールというものを付与しています。インデックスされたジャーナルの10%程度がこのDOAJシールを持っています。ここでは、アーカイブのポリシー、著者が機関リポジトリ等にデポジットする際にどういうことを認めているか、また論文にどういう識別子を使っているかといった情報を入れます。ここの項目は収録の要件ではありませんので、情報を入れていただく必要はありますが、収録の可否に関わることではありません。ここが終わりましたら、回答を確認して終了です。
[アカウント・項目一覧]アカウントはここ(https://doaj.org/account/register)で作成できます。そしてこちら(https://doaj.org/static/doaj/docs/DOAJquestions-for-reference-only.pdf)ではいままでみてきた項目をまとめています。アドバイスも含めた一覧なので、このファイルをダウンロードして回答を準備したうえで、ウェブサイトのフォームを入力していただくのをお勧めします。
[日本の状況]出版国が日本のジャーナルの概要を少しみておくと、現在91誌が収録されています。英語論文を掲載しているものが79誌、日本語論文を掲載しているものが16誌です。ライセンスは、CC BY、CC BY-NC-ND——これはかなり厳し目のライセンスだと思います——を選んでいるものが多いですね。査読ではブラインドレビューが多くなっています。DOAJのトップ画面のsearchでjournalを選んでいただくと、ジャーナルの絞り込み機能が出てきます。Country of publisherを選んでJapanで検索すると、日本から収録されているジャーナルを参照することができます。この機能を使って、他のジャーナルがどのようなウェブサイトを用意しているかを見ていただければと思います。
[参考資料]DOAJは、OA出版のためのリソースの作成に協力していますのでご紹介します。この三つ(The OA Journals Toolkit、PLACE、Think. Check. Submit.)がこれまで作成に協力しているものです。The OA Journals Toolkitは、私自身が編集者の立場から情報が豊富で使いやすいサイトだなと思っています。編集作業や編集委員会の運営をしていると、わからないことがいろいろでてきます。最新の情報にアップデートされたハンドブックはなかなか見つかりにくいのですが、このキットには、ジャーナル運営に関わるさまざまな情報がまとめられています。英語のものですが、自動翻訳機能を使えば日本語でサクサク読めますので、ぜひ参照していただければと思います。どれも使い勝手がいいリソースですので、ぜひ役立てください。
[質問受付]みなさんが収録申請の準備をしていて細かな質問が出てきたときは、DOAJのアンバサダーをしている天野さんと私に聞いていただければ、すべて回答できるかはわかりませんが、必要に応じてDOAJの事務局に問い合わせながら、丁寧にお答えしていきたいと考えています。質問等ありましたらいつでもご連絡いただけますと幸いです。
〈質疑応答・コメント〉
学術誌の評価と多様性の維持
天野(司会):事前にいただいていた質問です。「本学でも多数の紀要を発行しています。発行業務の支援を行う図書館員としては、ダイヤモンドオープンアクセスとしてそれら紀要の地位を高めていきたいとの思いがあります。一方で、DOAJの収録など、いわゆる学術雑誌としての評価を高めようとすると、scopeの明確化や査読の厳格化等が求められて学問的多様性や編集の迅速さといった紀要の利点を損なうことになるのではとの危惧を抱いています。この点について、講師やオーガナイザーの先生方の意見を伺いたいです。」
設樂:とても難しい質問ですが、みなさんの関心があるところだと思います。月並な答えになりますが、ジャーナルをどう位置づけたいか、どう利用していきたいかという出版者側の考えによると思います。発表の場というところに重点を置くなら、DOAJのクライテリアの厳しい細かいところをクリアするのではなくて、いろいろな自由度があるままにしておくのがいいと思います。査読誌としての場を作りたい場合には、DOAJのクライテリアを一つずつクリアして、DOAJへの収録を考えるのがよいかと思います。
必ずしもDOAJに申請される必要はないと思います。ただ、収録要件には今まで気づかなかった視点もあると思います。要件を確認して、自分のジャーナルはどこを満たしていて、どこが足りてないかを考えていただくといった、チェックリストとして参照していただくことも、より良いジャーナル運営へとつながる有用な使い方かなと考えています。
再申請について
天野:チャットでいただいた質問です。「DOAJの審査決定で、不採択の場合は6か月間は再申請ができないそうですが、最初に提出した論文の訂正等をして再申請をすることができるということでしょうか?」
設樂:DOAJの申請に関しては、論文ではなくて、ジャーナルごとに申請をしますので、質問の「論文」を「ジャーナル」に読み替えて回答させていただきます。不採択だった場合、返ってきたコメントを基に、ウェブサイトやジャーナルのポリシーなどを編集委員会で再検討して、ウェブサイトの不備があった場合はそこを直して、6か月後に再申請することになります。
採択率について
天野:もう一ついただいています。「DOAJの審査を通過する率は低い気がしますが、審査に通りそうか事前に見当がつかないものでしょうか? 大まかな審査基準は公表されていないのでしょうか? 申請してみないとわからないのでしょうか?」
設樂:たしかに、審査に通る率は高くないですね。事前にわからないのかというところですが、最後の方のスライドで紹介した通り、DOAJの審査項目とDOAJチームからの参考になるアドバイスをまとめた一覧表が公開されていますので、それを一つ一つ見ていただくと、ある程度は自分たちが足りていないところがわかります。審査に通りそうかはわからないかもしれませんが、万全の準備はできると思います。収録されているジャーナルがどのようなウェブサイトを作っているのか、どのような情報の明記の仕方をしているのかを確認して、それに合わせてやっていくと採択につながる率は高くなるのではないかと考えています。
出版体制、分野について
質問者:研究者や大学としては研究成果を広く読んで知ってもらうのは大事なことだと思うので、こういう取り組みは大事だと思います。一方で、申請するときに、出版母体の体制がどう判断されるのか気がかりです。例えば、紀要でも大学ではなく、〇〇会といったバーチャルな組織が出版母体になっているケースがあると思います。学会でも任意団体のことが結構ありますよね。出版体制や責任体制も含めて、その辺りはどう判断されるんでしょうか? そういう体制ではなく、出版の継続性や質で判断されるのかということがまず一点。
もう一点、人文系については編集委員会による査読も認めるということですけど、大学の紀要は学問分野というより部局から出ていて、最近は学際的な部局もたくさんあるので、人文系の論文でも、データサイエンス学部のようなところから出る可能性もあります。何をもって人文系のジャーナルと判断されるんでしょうか? この2点、確認させてください。
設樂:初めの質問*に関しては、DOAJの申請フォームにパブリッシャーに関する情報を入れるところがありますので、ここをDOAJのチームが確認していると思います。かつ、編集委員会に関しては詳細なルールがあります。ですので、きちんとした団体、発行母体になっているかはDOAJなりに確認していると思います。
二つ目の質問に関しては、今まで考えたことはなかったのですが、DOAJのチームで、人文系と考えていいかを一つ一つ確認していくと思います。非常に細かにウェブサイト等を確認して審査していきますので、人文系と自分たちが銘打っていても、DOAJで認められない場合には、この査読体制ではダメですっていう回答がくると思います。そういう審査がされると認識しています。
*の回答への補足
セミナー後、DOAJに確認したところ「出版機関には、専門出版社、学術機関、任意団体など、さまざまなタイプの組織があります。私たちがジャーナルを審査する際には、出版機関の存在とその信頼性を確認するための情報を参照します。これには、ウェブサイト、所在地、連絡先、組織構造、運営陣などの情報が含まれます。出版社(者)に関する情報は透明性が高く、簡単に見つけられるようにしてください。」とのことでした。
社会科学分野の査読について
天野:チャットにきた質問です。「STM分野とSSH分野では査読等の慣行が大きく異なると認識しております。DOAJのクライテリアをもってArts and Humanities分野ではエディトリアルレビューを認めているというのは、そうした現状を反映しているのでしょうか? この場合、Social Scienceは対象外でしょうか?」
設樂:まさにそのとおりだと思います。分野によって査読に関する考え方や体制は違うことをDOAJでは十分理解していますので、Arts and Humanities(人文学)ではエディトリアルレビューを認めるということになっていると認識しています。Social Science(社会科学)では、2名以上の編集委員会外の査読者による査読が現在必要とされています。ただ、通常のトラディショナルなレビューではなく、オープンピアレビューといった可能性も残していますので、考えてみてもよいかもしれません。時代によって査読が変わる、分野によって変わるとDOAJは考えて、いろいろなパターンを提示しています。
天野:まだまだ質問はあると思います。スライドの最後にあるアドレスまでお送りいただけましたら、なるべく対応したいと思います。編集委員会の担当者として関わっているジャーナルをDOAJに登録したいときなどに何かご不明点がありましたら、設樂さんもしくは私のメールアドレスにご連絡ください。
これにて、大学発ジャーナルのDXに向けた連続セミナー全3回を終了いたします。このセミナーシリーズが、紀要や研究室の雑誌といった大学発のジャーナルの発展とジャーナルを通じた多様な研究の発展に少しでもお役に立てましたら、企画者としても嬉しく存じます。本日はどうもありがとうございました。