Open Journal Systems (OJS)の紹介:学術誌『RPG学研究』(JARPS)を例に(質疑応答・コメントつき)

研究者の歩きかたセミナー「大学発ジャーナルのDXに向けた連続セミナー(2)」2024/06/27
https://kiyo.cseas.kyoto-u.ac.jp/2024/07/seminar2024-06-27/

〈講演〉
Open Journal Systems (OJS)の紹介:学術誌『RPG学研究』(JARPS)を例に
ビョーン=オーレ・カム
(京都大学大学院文学研究科)

本日は『RPG学研究』とOpen Journal Systems(OJS)について話をする機会をいただき、誠にありがとうございます。また、関心を持ってセミナーに参加してくださる皆様に感謝申し上げます。

今日は三つのトピックについて話したいと思います。まず、僕たちの学術誌である『RPG学研究』の概要について簡単に説明します。次に、OJSを使用する理由と方法について少し説明したいと思います。最後に、OJSの実践デモンストレーションを行い、投稿から編集者の決定までのワークフローをお見せします。

『RPG学研究』と自己紹介
『RPG学研究』は、アナログロールプレイングゲームの研究とデザインに関する英語圏と日本語圏の言説を橋渡しするために2019年に設立されました。創刊編集委員会は東京学芸大学、横浜国立大学、そしてドイツのミュンスター大学と京都大学の研究者で構成されていました。設立以来、僕は編集主幹を務めています。

僕は2015年から京都大学で働いており、2017年からハイデルベルク大学との共同学位プログラムをコーディネートしています。僕個人の専門はもともと日本研究とメディア研究で、主にマスメディアにおけるステレオタイプとサブカルチャーのプラクティスに焦点を当てていました。最近の研究テーマは、エンターテインメントおよび教育におけるアナログロールプレイングゲームです。ゲームに関する包括的な研究を行いながら、社会的ひきこもりや神経学的多様性についての意識を高めるために教育的なゲームをデザインすることにも取り組んでいます。

アナログロールプレイングゲーム
非デジタルまたはアナログロールプレイングゲームという言葉を聞いたことのない方のために、例を挙げましょう。ファイナルファンタジーは商業的に非常に成功しているデジタルロールプレイングゲームですが、その基礎は米国の「Dungeons & Dragons」や日本の「ソード・ワールドRPG」といったテーブルトークロールプレイングゲームにあります。プレイヤーはテーブルを囲んで座り、それぞれのキャラクターを口頭で演じます。ゲームマスターがプレイを進行し、ルールを仲裁します。非常にコミュニケーションが重視されるゲームで、物語はプレイヤーの相互作用を通じて展開されます。『RPG学研究』の共同編集者の東京学芸大学の加藤浩平先生は、自閉症の子どもたちが楽しくコミュニケーションを取るためのゲームを共同でデザインし、大成功を収めています。

また、ライブアクションのロールプレイ、LARPというものもあります。キャラクターの衣装を着て、数時間から数日間、そのキャラクターを全身で演じます。最も一般的で人気のあるジャンルはファンタジーで、「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」のようなものです。大多数のイベントの参加者は15人から30人ですが、毎年5日間で1万人のプレイヤーが参加するようなイベントもあります。

僕が個人的に最も興味を持ち、積極的に取り組んでいる分野は教育的ライブアクションロールプレイ、いわゆるedu-larpです。これは参加者にとって楽しいものでありながら、プレイの前後にワークショップを行い、ゲーム体験を日常生活に転用する手助けをします。例えば、伊賀市では三重大学が忍びLARPを提供しており、その歴史的背景を教えています。差別のような社会問題や他のインテンシブな体験などを取り込むLARPが世界中でいくつか挙げられます。

『RPG学研究』の内容と巻号
『RPG学研究』では、趣味として行われるこのようなゲームについて、プレイヤーとキャラクターの相互作用、安全なプレイスペースなどの研究課題に関する寄稿を求めています。また、芸術的、政治的、教育的アプローチに関する研究も関心がある領域です。研究論文だけではなく、ベストプラクティスレポート、エンターテインメントや教育用のロープリングツールやテクニックも公開しています。例えば過去には、プレイヤーが難しいトピックやトリガーに対処するための安全カードの日本語訳を公開しました。

2019年の創刊号以降、特定のテーマを持たない創刊号を除いて、これまでに4号を発行しており、今年は第5号の準備を進めています。各号の発行と共に国際シンポジウムも行い、著者が自分の研究を発表し、通訳を介して言語の壁を越えて議論する機会を提供しています。

類似ジャーナルと『RPG学研究』の使命
僕たちの主な使命の一つは、日本と他の地域の研究者やゲームデザイナーの間で対話、ダイアログを可能にすることです。英語圏にはすでにInternational Journal of Role-PlayingAnalog Game Studiesなどの学術誌があります。また、Simulation & Gamingというジャーナルも教育的アプローチに近い内容を扱っており、日本語の姉妹誌もあります。しかし、僕たちの関心のある多くのトピックはシミュレーション・ゲーミング分野では扱われていません。ですから、類似のジャーナルが存在してはいますが、2言語対応でオープンアクセスのものが国際対話を促進するために必要だと考えました。

なぜオープンアクセスにしたか
最初からオープンアクセスにすることを決めていました。例えば、Simulation & Gamingは最近一部の論文を限定的にオープンアクセスで提供していますが、それ以外の論文にはアクセスしにくい状態です。教育的ロールプレイヤーやLARPの実施者がシミュレーションゲーム分野を長い間知らなかったのは、有料の壁が知識の流れを阻害していたからです。また、僕たちの分野の関係者は学術機関ではなく、NGOやNPO、そしてもちろんゲーム会社に所属していることもよくあります。関心を持つ全ての人々が無料で知識にアクセスできるようにしたかったのです。そして、国際的な交流と協力のためのノードポイント、コミュニティーを作りたかったのです。

得られた反響
これまでのところ、僕たちの選択は正しかったと考えています。投稿数は年々増加し、ダウンロード数も増える傾向にあります。全ての寄稿を著者のORCiDにリンクさせることで引用数も容易に追跡できますが、それもかなりの数に上っています。

一つの例として、日本の著者の中には、初めて英語圏で認知され、これまで以上に幅広い読者層にアクセスできて、海外でもネットワーキングができた方々がいます。また、関連する年次国際シンポジウムの参加者数も増加しています。学術誌の出版で最も難しい側面の一つである査読者を見つけることにはもちろん時間がかかりますが、信頼できる査読者のベースができたので、本プロジェクトを推進し続けています。

『RPG学研究』のウェブサイト
『RPG学研究』のフロントページには、現在の募集要項を掲載しています。最新号のランディングページとしても機能しています。ウェブサイトはもちろん日本語と英語で提供しています。ボランティアで運営されているダイヤモンドオープンアクセスの学術誌です。ボランティアで運営されているのですので資金は限られており、全ての論文を両言語で提供することはできませんが、英語または日本語の読者にとって興味深いと思われる論文を適切に翻訳するよう努めています。

こちらは個別論文のページで、タイトル、要旨、HTML及びPDF形式の本文へのリンク、ダウンロード数の情報などが含まれています。

『RPG学研究』の全ての論文をHTMLとPDFの二つのバージョンで提供しています。PDFは標準的な研究論文の体裁で、投稿の主な言語に関係なく日本語と英語の要旨が含まれています。しかし、僕自身の教育経験から、多くの学生がスマートフォンで研究論文を読むため、PDFではテキストの表示が小さすぎて読むのを諦めることが多いと気がつきました。その経験から『RPG学研究』の全ての論文を画面サイズで動的に調整されるHTMLページとしても提供しています。また、HTMLテキストの引用は難しいため、HTMLバージョンには段落番号を使用して引用を可能にしています。さらに、HTML版なら自動翻訳サイトを使って読むことができますので、翻訳されていない論文のアクセシビリティも高めることができます。

なぜOpen Journal Systems?
OJSは様々な形式での論文配布を容易にします。それが、このプラットフォームを選んだ理由の一つです。ウェブサイトのフロントだけを考慮すれば、WordPressを選ぶことも可能だと思いますが、査読プロセスを支援し、DOIやORCiDなどの識別子にリンクするためのバックエンドがOJSを選ぶ決め手となりました。

僕自身の研究を通じてOJSを知りました。2012年にTransformative Works and Culturesという学術誌に論文を投稿し、受理されました。その時の利用者としての使いやすさを記憶しており、自分たちの学術誌にOJSを試してみることを提案しました。

初号発刊までの設定
僕はWordPress、Moodle、PHP、HTML、CSSなどの経験が豊富だったので、テストサーバにOJSを設定し、その後プロダクションサーバに移行するのに困難はありませんでした。2019年にはすでにセットアップウィザードがインストールプロセスを案内してくれていましたが、現在はそのウィザードがさらに改善されていることを確認しました。

WordPressのブログを設定したことのある方があるなら、OJSのジャーナルを設定する手順はそれほど難しくないと思います。しかし、メンテナンスにはWordPressの更新よりも多くの知識が必要です。既存のデータをバックアップし、更新スクリプトを実行するためには、コマンドラインアクセスが必要です。

これは誰でもできるわけではないので、図書館と連絡を取り、OJSの設定とメンテナンスについて協力できないかを確認することを強くお勧めします。OJSはマルチジャーナルシステムであり、図書館が一つの中央インストールを設定し、複数の学術誌を作成することができます。そうすれば、システムのメンテナンスを集中化しながら、各ジャーナルに必要な柔軟性と自律性を提供することができます。でも、これは全学的な戦略の話なんですけど。

『RPG学研究』では、設定、メンテナンスを全部自分で行いました。その理由の一つは、学術誌をオープンにすることでどんな課題が出てくるか全くわかっていなかったからです。創刊編集者の誰もが、論文の投稿や査読などの経験があったんですけど、学術誌編集経験はありませんでした。京都大学図書館との連絡が遅れた原因です。

DOIと京都大学図書館KURENAIリポジトリ
図書館に連絡した理由は、論文にDOIを付けたかったからです。ISSNへの登録方法は簡単に見つかり申請しましたが、DOIはより複雑でした。そのため、京都大学図書館に連絡し、KURENAIリポジトリを介して論文を提供すればDOIを取得できることを学びました。このオプションを選んだのは、HTMLとPDFの二つのバージョンのアプローチに利用できるからです。全てのPDFバージョンが京大のリポジトリにあるため、ジャーナルウェブサイトのメンテナンス中でも読者がPDFにアクセスできます。また、長期的なアクセスを保証することにもなります。

Open Journal Systemsの日本語訳
ISSNやDOIの問題が解決された後、ジャーナルを始めるうえで最大の障害に直面しました。それは、OJSソフトウェアの日本語訳がないことでした。バイリンガルジャーナルは投稿者にも査読者にも母国語でのアクセスを提供して全てのプロセスをナビゲートする必要がありますので、これは大きな問題として浮上しました。ちょっと驚きだったのは、OJSを利用している日本語のジャーナルをいくつか見ていたからです。問題は、それらの学術誌がOJS2番という旧バージョンを使用していたのに対し、僕たちは一番新しいOJS3番をインストールしていたことでした。新しいコード構造のため、まだ日本語訳がありませんでした。

最終的には自分たちでその翻訳を作成しなければなりませんでした。これは多くの作業を意味しましたが、OJSのようなオープンソースソフトウェアの利点でもあります。商用ソフトウェアでは翻訳を行うことができず、ソフトウェアを所有する会社が翻訳を行うまで待つしかないですよね。

0からの翻訳ではなく、OJS2番の翻訳を利用して、OJS3番の翻訳を作成することができました。また、例えば有料購読に関連する機能は使用するつもりがなかったため翻訳せず、自分たちの学術誌運営に必要な部分だけ翻訳しました。それに、翻訳していなくても英語は表示されるので、ユーザは少なくとも何をすればよいか推測できると思います。

最初の日本語訳を行った後、OJSを開発しているPublic Knowledge Project(PKP)社は、翻訳の扱い方を何回も変更しました。現在は、コミュニティ翻訳プラットフォームWeblateを使用し、日本語はja_JPからjaのみのラベルに変更されました。このため、再び翻訳作業を始めなければならない部分もありましたが、仲間が加わり、現在は僕と、直接には知らない日本人の同僚がほとんどの翻訳を行っています。ちょっと変な日本語に遭遇した場合、それは全部僕のせいです。そしてこれがオープンソースの素晴らしいところで、翻訳に不満があればWeblateに登録して誰でも簡単に修正することができます。

OJSの最新リリースで、また新しい設定やオプション、メールテンプレートがでました。それで、今日のセミナーでこれからお見せするデモのために、またいろんなところの翻訳を行いました。それから、著者や査読者は気づかないでしょうが、編集の視点を今日お見せするので、その部分の追加翻訳が必要でした。まとめると、現在日本ではOJSを日本語で使用できる準備が整っているといえます。

Open Journal Systemsのデモにあたって
初期の作業と設定が終われば、実際の作業は簡単でスムーズです。投稿および査読のプロセスの一部をお見せしたいと思いますが、デモに入る前にお知らせしたいことがあります。

去年5周年を記念して、ウェブサイト(フロントエンド)を完全にリデザインしました。創刊当初は学術誌を配布するためのプラットフォームを探していただけで、ウェブサイトのデザインについてはあまり考えていませんでした。OJSはカナダのSimon Fraser大学と関連のあるPKP社から提供されています。OJSの他にOpen Monograph PressとOpen Preprint Systemsというソフトウェアもあります。京都大学図書館でのこのPKP社とのコラボレーションミーティングで代表のJohn Willinsky先生に出会い、フロントエンドデザインの多くのオプションを試すよう提案され、実際にそうしました。これらの変更はサンドボックステストサーバで行いました。

バックエンドの操作方法を見せるために、このサーバを使用したいと思います。なぜなら、現在は最新号のために査読中ですので、ライブバックエンドをお見せすると著者と査読者の匿名性が損なわれる可能性があるためです。

では、投稿および査読のプロセスに関与する3人、つまり編集者と著者そして査読者が何を見て何をするかを紹介します。

Open Journal Systemsのデモ:著者
著者から始めたいと思います。著者はアカウントを作成する必要がありますが、今回はこのステップを省略します。すでに登録している著者は、フロントページから「投稿を提出」をクリックして新しい投稿を開始できます。そうすると投稿ガイドライン(執筆要項)で、ジャーナルのセクション、つまり投稿の種類や何を用意する必要があるのかを確認できます。(同じ画面の「投稿」という見出しの下に「新規投稿」へのリンクあり)

その後、「新規投稿」に入って、この画面になります。『RPG学研究』は日本語と英語で投稿できます。数名の著者は同時に両方の言語で原稿を提出しましたが、通常は母国語を主な投稿言語として選ぶようにお願いしています。デモでは日本語を選択します。次のステップはもちろん投稿のタイトルの入力です。その次に、どのような投稿であるかを示すために、セクションのカテゴリを選択する必要があります。研究論文、理論論文、実践報告、教育・実践資料などいくつかのセクションがあります。デモでは研究論文にします。最後に投稿チェックリストを確認して、個人情報の扱いについてのステートメント(個人情報保護方針)に同意し、投稿を開始します。

タイトルは先ほど入力したものがすでに記入されているのでここにもう一度入力する必要ではないのですが、もう一つの言語でもタイトルを入力したければここで(画面上部の言語タブで表示を切り替えて)できます。キーワードは、基本的に著者による指定をお願いしています。キーワードを入力すると、すでに使われているキーワードが表示されるので、これだと思うものがあれば選択できます。300字程度の要旨をジャーナルからお願いしていますが、少し短くても構いません。

著者はいつでもこのプロセスを中断できます。「一時保存」をクリックして、後でここに戻ることができます。例えば、要旨の準備を忘れた場合、一時保存して、後で要旨を追加できます。

次のステップはたぶん一番大事だと思うのですが、投稿ファイルのアップロードです。(本文ファイルを)アップロードしたら、(ファイルの内容の選択肢から)「投稿原本」を指定します。他のファイル、例えば表や画像があれば、それもここでアップロードします(ファイルの内容は「その他」)。

次は、寄稿者をリストアップするステップです。論文の作成を手伝った他の方がいたり、共同研究者がいたりすれば、寄稿者をここで追加できます。提出する著者が主な連絡先になります。今回のデモでは、単著の論文として扱いますので、寄稿者を追加しません。

最後に、もし編集者に伝えたいことがあれば、コメントを入力することができます。例えば、「提供された画像は150dpiですが、後でより高品質のバージョンを提供します」とか。

投稿内容を最終確認して問題がなければ、著作権の条件について同意して、(画面下部の「実行」をクリックして)提出します。

ダッシュボードに戻ると、投稿物の「キュー」にその投稿が表示され、ここで簡単に今どのステータスにあるかを確認できます。今は「投稿済み」ですね。

Open Journal Systemsのデモ:編集者
次は、編集者の作業に入りたいと思います。編集者の画面にはもう少し設定オプションが多くあります。「投稿物」の画面に新しい投稿(=処理中の投稿物)があるという情報が示されていれば、まず担当の編集者を決めないといけません(=編集者の任命)。デモのために編集者のアカウントを設定しています。編集者にメッセージを送ることもできます。

(処理中の投稿物を閲覧すると)「参加者」というところに、どの編集者が担当しているかが表示されます。最初の課題は、ファイルをダウンロードして投稿を確認することです。そして、ジャーナルの最低限の要求を満たすかどうかを確認することです。著者がよく忘れるのは自分の名前をWordファイルの概要タブから消すことなので確認します。他のファイルもちろん確認します。コメントも確認します。

最低限の要求を満たしていると判断すれば、査読に送ります。OJSでは、そういうときのための様々なテンプレートを用意していますので、基本的には何も追加で書かずにそのまま著者に査読を行うという決定を送ることができます。

決定後は査読者の追加(選択)です。自動的に作成されるメッセージを査読者に送ります。全てのリンクがメールに入っています。僕たちの基本的な査読期限は約4週間です(査読期限日を設定)。二重盲検査読、ダブルブラインドピアレビューを実施しています(査読タイプで「匿名の査読者/匿名の著者」を選択)。ですが、査読者と著者がより簡単に交流ができるように査読フォームを使用しています。今回のデモでは一人の査読者だけにしますが、普段は最低二人の査読者にお願いします。

Open Journal Systemsのデモ:査読者
査読者Aには査読のお願いが届きます。論文のタイトル、要旨、査読ファイルにアクセスして、はい・いいえ(受諾・謝絶)を選択する前に、どのような論文であるかを確認することができます。もしよければ、査読を受諾して次のステップに進みます。『RPG学研究』の査読者ガイドライン、そして何についての評価が欲しいかがここに書いてあります。査読フォームでは評価の重要なところが質問になっており、(これを使ってもらうことで)ある程度査読プロセスを簡単にしたいと思っています。このフォームを使わず、例えば、自分でテキストを書いてそれをアップロードすることも、論文のWordファイルに直接コメントを入れてそれを提供することももちろん可能です。

査読の一番重要なステップは総合的な判断・評価(=査読結果)ですね。少し修正したらいいかと思ったら、その通り(「改訂を要求」を選んで)編集者に伝えることになります。

Open Journal Systemsのデモ:再度、編集者〜採択
また編集者画面に戻ります。ここ(査読タブ>ラウンド1タブ>査読者欄の査読者Aの「査読結果を読む」)で査読者の意見が読めますし、査読者の評価もできます。この査読者は早く丁寧に査読したから星を5つ付けましょう、とか。査読者の判断と考えが一致したら、著者に修正版を求めます。ここでもまたシステムが自動的に文面を作成してくれます。査読者のコメントが著者へのメールに自動的に入り、次に査読者へのお礼のメールも送ることができます。

著者にはその決定の情報がメールやシステム内で提供されて、修正が終われば著者はシステムからリビジョン(修正版)ファイルをアップロードできます。

編集者がまたそれを確認して、もう一度査読者にお願いして新しい査読ラウンドを開始し、もし問題がなければ採用して、原稿処理のステージに入ります。このステップは主にシステム外で行いますので省略します。それもできたら完成した原稿原本をアップロードして、次の段階に入るんですけど、主なプロセスはこれでわかると思いますので、ここで終了いたします。
以上です。ご清聴ありがとうございました。

(質疑応答・コメント)
字数制限
北村(司会):どうもありがとうございました。この連続セミナーのテーマであるOA化の意義も言語化していただいて、地域、言語を超えていく、学術分野を超えていくだけではなくて、業界を超えていくことができると改めて実感を伴って感じることができました。
チャットでご質問をいただいています。「『RPG学研究』への論文などの投稿に字数制限はないのでしょうか? 最低何文字、最大何文字などありますでしょうか?」

カム:はい。投稿の種類によって文字数や語数が変わりますが、研究論文・理論論文は和文が12,000字から15,000字、英文が6000ワードぐらいです。他の投稿はそれより短いです。

AI翻訳
北村:続いての質問です。「日本語への翻訳は発展著しいAIを使えないのでしょうか?」

カム:10年前と比べると自動翻訳サイトはだいぶ良くなった気がしますが、やっぱりまだわからないところも多いですし、AIがわからないところを翻訳しないこともあります。HTMLとして提供されている論文はGoogle Translateなどでまずまず読めると思いますが、国際シンポジウムのときに、通訳でやっと論文の内容がわかりましたといった反応がいくつかありました。シンポジウムには素晴らしい通訳者がいますので。AIはまだまだだと思います。まだ人間が必要です。

査読者への評価
北村:次の質問です。「査読者の評価は誰かと共有されるのでしょうか? 査読を断られることが増えているのかと思いますが、査読者への評価は査読者にとって査読を引き受けるモチベーションにつながりそうだと思いました。」

カム:編集者の権限を持つユーザーしか評価が見えません。外部の誰も見られない評価です。僕らはあまり使わないんですけど、この査読者は早く対応してくれるとか、この査読者は何回もリマインドをしないといけないとかの評価として使えるんじゃないかと思います。
たまにゲストエディターにもお願いしますので、そのゲストエディターとして誰に最初に声をかけるといいといったことを見えるようにできると思いますが、今までは実際には評価を使ってないので役に立つかどうかわかりません。

WordからHTMLへ
北村:では次の質問です。「投稿されたWord原稿からHTMLファイルを作成するにはどれくらいのコストがかかっているのでしょうか?」

カム:『RPG学研究』はボランティアで運営しているもので、自分の時間をやりくりしてやっています(ので、省力化しています)。MultiMarkDownとpandoc、そしてZoteroといった文献ソフトのエクスポートの組み合わせで、HTML版やPDF版をワンクリックで作ることができます。全ての原稿はまずMarkDownで準備して、その他のバーションにコンパイルしています。
最初にコーディングとか、ちょっとプログラムの準備が必要ですが、一度設定したらそれから毎回ワンクリックです。

大学図書館とOpen Journal Systems
北村:「大学の図書館でOJSをホスティングすることも可能でしょうか」という質問が出ているんですけれども、これについて先生のご意見はいかがでしょうか?

カム:これはやっぱり大学図書館の戦略的な話になると思います。そうする大学もいくつかあると思います。僕はハイデルベルク大学との共同学位プログラムを担当していますので、ハイデルベルク大学の動きも知っています。ハイデルベルク大学では、図書館に自分のジャーナルを立ち上げたいと伝えると、すでに準備されているOJSインストールにそのジャーナル追加できます。でも、中央サーバーでOJSを提供するかどうは、図書館の戦略的なものです。基本的には可能ですけど、OJSインストールを世話する方は必要ですね。

北村:今、北米の図書館でもパブリッシングライブラリアンというようなポストが一般的になってきたりしている事例もあります。それぞれの状況やオープンアクセスに対する戦略が関係してくるんだと思いますが、ハイデルベルク大学の事例を共有していただいて大変勉強になりました。

関連論文発見AI
北村:続いての質問です。「ウェブに掲載される論文などを読み上げてくれる機能があったら、自力で読む負担が減り、研究テーマなどのヒントを得やすくなり、研究が進むといったことはありませんか?」

カム:(読み上げ機能ではないけれども論文調査をサポートする)AIプロジェクトがいくつかあると思います。一つはElicitで、最初は無料でしたけど、有料になりました。ResearchRabbitは、日本語で提供されているかどうかわかりませんが、ソフトウェアがアクセスできるデータベースにあるいろんな論文を読んでまとめてくれます。どの論文がどの論文を引用しているとか、そういうネットワークグラフも提供してくれますので、自分で読む負担を減らせるかもしれません。ただし、AIが信頼できるかどうか、ハルシネーションになっていないかどうかを確認しないといけませんけど。